ほぞんよう

ソースは報知のモバイル。流れてしまうのが勿体ないので貼っておく。

11/9 二岡の努力…代打に隠れ

 L字形のカウンターテーブルで、いずれも角席に陣取っていたから、つまり斜めに向かい合っていた。広島市内の、うまい鳥料理を供する居酒屋。記者の視界の右端で、巨人の二岡がコップに5センチばかり残っていたビールを一気に飲み干す。偶然に居合わせ、たわいのない話に花を咲かせ、あの日の記憶にたどり着いた。

 7月15日。
 背番号「7」が第1打席、バッターボックスで最も投手寄りの場所に左足を据え、バットを構えている。さらに、以前と異なる打撃フォームでスイングをした。
 もともと打席の最前部に立つスタイルだったけれど、今年は原監督の助言で、最後部に移動した。開幕ダッシュに成功したものの、6月中旬あたりから様子がおかしくなる。「資料室に入ってビデオを見始めたら、2〜3時間なんて、あっという間に過ぎる」ほどの、本人いわく「自分研究家」。試行錯誤を重ね、立ち位置を昨季までの形に戻すと決めた。それが、7月15日、広島戦の試合前だった。
 記者「やっぱり、あそこが心地いいのかな」
 二岡「だね。色々やってみたけど、自分に合ってると思う」
 ところが、第4打席に”事件”が起きる。七回一死満塁の好機で、代打を出されたのだ。翌日から7本塁打を含む16試合連続安打と波に乗り、周囲は結論づけた。指揮官の無言のゲキが効いている――。
 例の居酒屋で、鳥の「せせり」(首周りの肉)をほおばっている31歳に、さりげなく水を向けてみた。
 記者「実際、代打で発奮した部分があるのかな」
 二岡「……。これ、うまいよ。食べてみてよ」
 問い掛けをかわし、ぐいっと左手で皿を突き出した。”事件”の陰に隠れてしまった、生え抜き遊撃手の創意工夫と決断。多分、察してくれということだろう。真実の居所は、ファンの判断に任せたい。記者は、しかし、二岡が自力で浮上したと今でも信じている。
 感情の量は人並み以上であるにもかかわらず、表現の仕方が下手で、しばしば損をする。こんな男が、いてもいい。先に席を立った記者へ「ふらふらしないで、ちゃんと帰ってよ」と憎まれ口をたたき、それとは裏腹に、はじけるような笑顔を見せた。(田中富士夫)

分かってる人は分かってるから。